拙書『鳴かず飛ばずの中高年サラリーマンが、アドラーの「人生の意味の心理学」を通勤電車で読んだら・・・』(デザインエッグ社)の「はじめに」には、次のような文章があります。
私は、自立とは自分のために生きること、また、自分が周りと違うということに耐えられるということでもあると思っています。そして、その自立のためには、アドラーのいう「意味の領域に生きる」ことに関して、「自分の軸」に基づいて実践していく必要があります。なぜならば、中高年サラリーマンは、長年にわたって「人生の意味」を「働く意味」と同一視してしまい、世間や会社から与えられた“歪んだ意味”を信じてきたからです。
そう、世間の横並び主義や会社の成果主義などによって、「働くこと」と「個人の成功」がいつの間にか結びつけられ、「働いて社会的に成功すること」が人生の意味になってしまったのです。
「人生は、はかなく、それ自体の意味は希薄である。だからこそ、人は必死になって自分なりに人生の意味合いを創り出そうするのだ」 (アメリカの映画監督/スタンレイ・キューブリック)
ご興味あれば、ぜひ電子書籍をお読みください。
さて、アルフレッド・アドラーの著『人生の意味の心理学』についての独自に解説、今回は、3回のうちの3回目(最終回)をお伝えしていきたいと思います。
「人生の意味の心理学」解説のストーリー(目次)は次の通り。
「人生の意味の心理学」解説のストーリー(目次)
Ⅰ.『劣等感』について・・・
①人類発展の原動力は劣等感
②個人の成長の原動力は劣等感
Ⅱ.『目的論』について・・・
①決定論と目的論
②生き方は「トラウマ」に関係ない
Ⅲ.『ライフスタイル』について・・・
①虚構であり有用であるライフスタイル
②早期回想とコモンセンスからみるライフスタイル
Ⅳ.『共同体感覚』について・・・
①私的論理と共同体感覚
②社会的に有益な人のパーソナリティ
③かけがえのない仲間
Ⅴ.『人生の課題』について・・・
①取り組むべき3つのライフタスク
②交友の課題、仕事の課題、愛の課題に共同体感覚は欠かせない
Ⅵ.『勇気づけ』について・・・
Ⅴ.『人生の課題』について・・・①取り組むべき3つのライフタスク
アドラーはいいます。
「3つの課題が、私たち一人ひとりの前に立ちはだかっているのだ。それらは、交友、仕事、愛についての課題である。これらは避けることのできない人生の課題である。人生における幸せは、充実した仕事、親密な関係、そして愛に支えられた家族関係をいかに実現するかにかかっているのである」
人が生きていくためには、共同体における他者との交友、協力関係が欠かせません。
また、仕事は、共同体の利益に貢献するために、そして自身の生活のためにやはり不可欠な課題です。さらに、愛の課題は、共同体を未来へつないでいくという点でとても重要なことです。
つまり、これらの3つの課題は、それらを達成するために大切な「他者とのよい関係づくり」について、前回コラムで確認した「共同体に属する人々を“仲間”と考えられるようになること」、を基本として取り組んでいくべきものなのです。ここで気をつけなければならないことは、アドラーは、「課題」といっているのであって、「問題」といっているのではないということです。「問題」はやっかいなものであり、それは解決されなければならないことでもありますが、「課題」は必ずしもやっかいというものではなく、人生のテーマとして扱われるべきものなのです。
また、3つのライフタスクを引き受けるにあたっては、「自分らしさ」を犠牲にして、相手に合わせて生きていくことをしてはいけません。
なぜなら、そのことは一見、人間関係がうまくいっているように見えるでしょうが、それは「自分軸」のない生き方をしていることになるので、いつかその人は行き詰まりを迎えるときが来てしまうからです。
②交友の課題、仕事の課題、愛の課題に共同体感覚は欠かせない
アドラーは「交友」について次のようにいいます。
「人間は集団を形成するからこそ言葉を必要としたのである。交友にはもっと言葉を活用することが重要である」
言葉は人と人を結びつけます。ちょっと勇気を出して言葉をかけることで、交友はつながり、広がっていくのです。
アドラーは「仕事」について次のようにいいます。
「仕事は共同体に後見するために存在する。自分の仕事が共同体にどう役立っているかわかると、仕事のやりがいも生まれるというものだ」
私たちは、自分の担当する仕事が共同体にいかに貢献しているのか、そのことが実感できればできるほど、私たちのやりがいも高まっていきます。また、やりがいを持って仕事に取り組むことで、その仕事が好きになっていくという好循環も生まれます。
アドラーは「愛」について次のようにいいます。
「ふたりの課題は固有の構造を持っており、ひとりの課題を解決する方法では正しく解決することはできない。この問題を充分に解決するためには、ふたりはどちらも自分のことをすっかり忘れ、もうひとりに献身しなければならない」
パートナーとの良好な関係を築くためには、一方だけが献身的でもうまくいきません。双方がそろってお互いを理解し、共同体感覚を身につけることが大切なのです。
アドラーはいいます。
「ライフタスク(人生の課題)を正しく達成するには、そこにおける人間関係をどうつくり上げ、維持し、そしてつくり変えていくかが重要である。人と共にあり、人と共に働き、人と共に生活することの中にこそ、人生の幸せがある」
人生における幸せは、ライフタスク(人生の課題)をいかにして達成するのかにかかっています。私たちには、ライフタスクというものに常に付いて回る“人間関係”の存在があります。それをどのように受けとめ、どのように解決していくのか。私たちは、一人ひとりの自分軸(自分らしさとありたい自分)を持ってして、その対応に真摯に取り組まなければならないのです。
Ⅵ.『勇気づけ』について・・・勇気の心理学
アドラーはいいます。
「勇気づけの本質は相手への感謝の気持ちである。勇気づけは相手を正しい目標へと背中を押す行為でもある」
また、アドラー心理学では、人はその人が持つ目的や目標に従って行動し結果に至る、と考える目的論の立場を取ります。
従って、相手の不適切な行動を正す場合も、過去にアプローチするのではなく、これからの正しい目標を設定して、そこに至るための正しい取り組み方を、相手とともに考えることに重きを置きます。
つまり、アドラー心理学の勇気づけとは、いま現在を正しい目標に向かわせることと言えるのです。
では、自分自身を勇気づけるにはどうしたらいいのでしょうか。
ここで、Ⅲ.『ライフスタイル』について・・・①虚構であり有用であるライフスタイルでお伝えしたことを思い出してみてください。「ライフスタイル」とは、その人の選択や意味づけによって形成されたものなのでした。
アドラーはそのことについて、「ライフスタイルは虚構である。だから不適切なライフスタイルは再構築が可能なのだ」といいます。
つまり、勇気をもって人生の見方を少しだけ変えてみることが大切で、そうすることで人生が劇的に変化することもあり得るのです。
受講生:「人生の意味とは何ですか?」
アドラー:「誰にでも当てはまるような人生の意味などないのである。人生の意味とは、自分が自分の人生に与えるものである」
私たちは、自分らしさ(価値観)とありたい自分(目標)というものが、共同体への貢献につながっていることによって、自らを回復し、人生の意味を実感できるようになっているのです。
まとめ③ アドラーの言葉
・「人生の3つの課題を解決できるのは、共同体感覚を充分持っている人だけであるということは明らかである」
・「もし、彼がすべての人の友になり、有益な仕事と幸せな結婚によって彼らに貢献することができるならば、彼は決して他者に劣ると感じないであろうし、また負けたとも感じないであろう」
・「貢献こそ人生の真の意味である。貢献することでそれぞれが自分の人生に意味を与えるのである」
・「もし人生が、自立的な個々の人間たちの協力として取り組まれるならば、われわれ人間の社会の進歩に限界はみられないのである」
3回にわたってお伝えしました、『人生の意味の心理学』は今回で最後になります。
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