「自分ができること(自己表現)」から「相手が欲しい変化(課題解決)」へ〜隠れ内向型の中高年が歩む「ヒーローズ・ジャーニー」⑥
前回まで、私たちは、「自分には、何も特別なものがない」と思っていた中高年の人が、実はこれまでの人生の中に、
たくさんの「宝」を持っているということについて考えてきました。
30年、40年と働いてきた。たくさんの人と出会ってきた。
仕事で失敗してきた。何度も問題を解決してきた。
人間関係で悩んできた。誰かに助けてもらったこともある。
そして、自分自身も誰かを助けてきた。それらすべてが、「経験」という財産になっています。
でも、前回の第5回で一つの問題にも氣付きました。
それは、「経験がある」だけでは、まだ仕事にはならないということ。
自分が、「これは価値がある」と思っているものと、相手が、「それなら、お金を払ってでも欲しい」と思うものは、必ずしも同じではありません。
だから、次のステップが必要になります。
それは、「自分の経験」を「相手が望む変化」に変えること。
今回は、ここをもう一歩深く考えてみたいと思います。
1.「私は、こんなことができます」
起業すると、まず自分のことを説明したくなります。
「私は30年間、営業をやってきました」「私は管理職を20年経験しています」
「私は○○の資格を持っています」「私はこんな仕事をしてきました」
もちろん、それは大切な情報です。
でも、それを聞いた相手は、心の中でこう思っているかもしれません。
「それで、私に何がしてもらえるの?」
少し厳しい言い方ですが、これが、「経験」と「価値」の違いです。
そして、相手が欲しいのは「あなたの経験」ではありません。
例えば、あなたが30年間営業をしてきたとします。
相手が欲しいのは、「あなたが30年間営業をしてきたという事実」そのものではありません。
相手が欲しいのは、「営業が苦手だけど、無理なくお客様を増やしたい」という未来です。
管理職経験なら、「管理職を20年やった人」そのものが欲しいのではありません。
「部下との関係を良くしたい」「部下にどう声をかければいいか分からない」「チームをうまくまとめたい」
という未来を求めているのです。
つまり、相手が買いたいのは、「あなたの過去」ではなく、「自分の未来」なのです。

2.「過去」から「未来」へ
ここで、考え方を一つ変えてみましょう。
あなたの経験を、「過去の実績」として見るのではなく、「誰かの未来を変えるための材料」として見る。
例えば、「私は、会社員として30年働きました」という過去。
それを、「これから会社を辞める人が、退職後の働き方を考えるためのヒント」に変える。
「私は、何度も転職しました」という過去。
それを、「転職を迷っている人が、自分に合った選択をするための判断材料」に変える。
「私は、管理職として何度も部下とぶつかりました」という過去。
それを、「部下との関係に悩む管理職が、もう一度関係を作り直すための方法」に変える。
こうして、過去が、未来のための価値に変わります。
それでは、どうすれば、「経験」を「価値」に変えられるのでしょうか?
一つの方法があります。
それは、「相手が、どう変わるのか?」を考えることです。
例えば、あなたが、「中高年の起業相談」をするとします。
「起業について相談に乗ります」だけでは、少し抽象的です。
でも、「起業したいけれど、自分が何を仕事にできるのか分からない中高年が、自分の経験の中から『仕事の種』を見つけられるようにする」
なら、少し具体的になります。
つまり、「何をするか」より「相手がどう変わるか」を見る。
これが、「価値」を考えるときの大切な視点です。

3.繊細な隠れ内向型だからこそ「小さな変化」を見つけられる
ここで、「隠れ内向型」というテーマに戻ってみましょう。
内向型の人は、派手な変化を追いかけるより、小さな変化に氣付くことが得意な場合があります。
相手の表情。言葉の変化。少し元気になった瞬間。
「実は、こんなことを悩んでいるんです」という一言。
そうした、「小さなサイン」を丁寧に受け取る。
これは、一対一の仕事では大きな強みになります。
例えば、あなたが誰かの相談を受けたとします。
相手は、「起業したいけど、何をしたらいいか分からない」と言う。
そこで、「じゃあ、○○をやればいいですよ」とすぐに答えるのではなく、
「どうして起業したいと思ったんですか?」と聴く。
「今の仕事で、一番つらいのは何ですか?」
「逆に、今の仕事で好きなことは何ですか?」
「これまで、人から感謝されたことは何ですか?」
「もしお金の心配がなかったら、何をしてみたいですか?」
そんな質問を重ねていく。
すると、本人さえ氣付いていなかった、「自分が本当にやりたいこと」が見えてくることがあります。

4.「答えを教える人」から「答えを一緒に見つける人」へ
これは、中高年の起業にとって、とても大切な変化かもしれません。
若い頃は、「正しい答えを知っている人」が評価されました。
仕事でも、「こうすればいい」と教えられる人が、優秀だと思われた。
でも、中高年になってからは、必ずしも、「答えを知っていること」だけが価値ではありません。
むしろ、「相手が自分自身で答えを見つけるのを助ける」という役割があります。
これは、これまでの人生経験を持つ中高年だからこそ、できることなのです。
例えば、あなたが30年間営業をしてきたとします。
若い頃なら、「営業はこうやるんだ」と教えたかもしれません。
でも今なら、「あなたは、営業のどこが一番苦手なんですか?」と聴くことができる。
「そのとき、相手はどんな反応をしましたか?」
「あなた自身は、どう感じましたか?」
「もしもう一度やるなら、どうしますか?」
と問いかける。
そして、相手自身に、「自分なりの答え」を見つけてもらう。
これも、「経験を価値に変える」一つの方法です。

5.内向型でも「仲間」は必要
ヒーローズ・ジャーニーでは、主人公が旅を続ける中で、「仲間」や「師」と出会います。
主人公は、一人で全部を解決するわけではありません。
助けてくれる人。アドバイスをくれる人。
違う視点をくれる人。失敗したときに、「大丈夫だよ」と言ってくれる人。
そんな存在に出会うことで、主人公は、次のステージへ進んでいきます。
これは、中高年の起業でも、同じではないでしょうか。
ここでも、隠れ内向型らしい方法があります。
100人の人脈を作る必要はない。1000人のフォロワーを集める必要もない。
まず、「この人には本音を話せる」という人が、2〜3人いればいい。
自分のアイデアを聞いてくれる人。
「それって、本当にお客様が欲しいの?」と率直に言ってくれる人。
落ち込んだとき、話を聴いてくれる人。
自分にはない視点を持っている人。
こうした人たちが、「仲間」になっていきます。
そして、「仲間」は、必ずしも同じタイプでなくていいのです。
例えば、あなたが、「考えるのは得意だけど、人前で話すのは苦手」なら、「人前で話すのが得意な人」と組む。
「文章は得意だけど、営業が苦手」なら、「人と会うのが得意な人」と組む。
「専門知識はあるけれど、ITが苦手」なら、「ITに詳しい人」に協力してもらう。
つまり、「自分が苦手なことを、全部できるようになる必要はない」のです。
そう、「弱み」を補う人と出会えばいいのですね。
これは、起業の大きなメリットでもあります。
会社員時代は、「自分の苦手な仕事も、自分の役割としてやらなければならない」ことがあります。
でも、起業すれば、「誰と一緒に仕事をするか」を選べる。
外向型の人と内向型の人。
アイデアを出す人と、それを形にする人。
話す人と、聴く人。
考える人と、行動する人。
違うタイプが組み合わさることで、一人ではできない仕事ができます。
6.「自分の弱み」を認めることは負けではない
ここも大切なポイントです。
中高年になると、「今さら、人に助けてもらうのは恥ずかしい」と思うこともあります。
長年仕事をしてきた。管理職も経験した。部下を指導してきた。人から頼られてきた。
だから、「分からない」と言いにくい。「できません」と言いにくい。
でも、「できないことを認める」ことは、負けではありません。
むしろ、自分の時間とエネルギーを、「自分にしかできないこと」に集中するための、大切な判断です。

7.小さく試してみる
ここまで来たら、いよいよ、「自分の経験を価値に変える」ための、小さな実験をしてみましょう。
いきなり、「商品を作る」必要はありません。まずは、一人の人に話を聴いてみる。
これだけでもいい。
いや、むしろ、これから始めてみたほういいですね。
そして、次に、「5人の話」を聴いてみるのです。
もし、あなたが、「中高年の起業支援をしたい」と思ったとします。
でも、いきなり、「中高年向け起業講座」を作らない。
まず、5人に聴いてみる。
「今、仕事で一番困っていることは何ですか?」
「定年後について、何が不安ですか?」
「もし何か始めるなら、何をしたいですか?」
「でも、なぜ始められないのですか?」
「誰かに相談するとしたら、どんなことを相談したいですか?」
こうした話を、ただ聴く、のです。
すると、「自分の思い込み」が壊れていきます。
ここが、とても重要です。
自分では、「みんな、起業したいと思っているだろう」と思っていた。
でも、実際に聞いてみると、
「起業したいわけではない」かもしれない。
「会社を辞めたいわけではない」かもしれない。
「ただ、自分の経験を誰かに役立てたい」だけかもしれない。
「収入より、生きがいが欲しい」のかもしれない。
「一人になるのが怖い」のかもしれない。
こうして、「自分が想像していた相手」と「本当の相手」の違いが見えてくるのですね。
8.「聴く」ことから、商品が生まれる
ここで、隠れ内向型の大きな武器が、もう一度登場します。
「聴く力」です。
相手の話を聴く。悩みを聴く。不安を聴く。願いを聴く。
そして、「この人が本当に欲しいものは何だろう?」と考える。
その中から、少しずつ、「提供できる価値」が見えてきます。
つまり、商品は、「自分の頭の中だけ」で作らなくてもいい。
「相手の声」から生まれることがあります。
「売る前に、聴く」
これは、隠れ内向型起業家に、ぜひ覚えておいてほしい言葉です。
売る前に、聴く。
「こんな商品があります」と言う前に、「何に困っていますか?」と聴く。
「このサービスが役立ちます」と言う前に、「今、一番困っていることは何ですか?」と聴く。
「私はこんなことができます」と言う前に、「どんな未来になったら嬉しいですか?」と聴く。
これなら、「自分を売り込む」ことが苦手な人でも、始めやすいのではないでしょうか。
そうすると、前々回の第4回で考えた、「営業が苦手」という問題も、少し変わってきます。
営業とは、「自分を売り込むこと」ではない。
営業とは、「相手の問題を理解し、自分にできることを伝えること」だと考える。
そうすると、営業が、「自分をアピールする場」ではなく、「相手との対話の場」になります。
これは、隠れ内向型にとって、大きな転換点になる可能性があります。
9.「自分の価値」は自分で決めるものではない
そして、もう一つ、とても重要なことがあります。
「私は、こんなに経験がある」ということと、「相手が、その経験に価値を感じる」ことは、別です。
自分で、「これは素晴らしい」と決めるのではなく、相手の反応を見てみる。
「そこが一番参考になりました」と言われた。
「そこをもっと詳しく知りたい」と言われた。
「それなら、お金を払ってでも相談したい」と言われた。
こうした反応が、「価値の証拠」になっていきます。
それは、言い換えれば、「“ありがとう”の中に、仕事の種がある」ということです。
特に注目してほしいのが、人から、「ありがとう」と言われた瞬間です。
「話を聞いてくれて、ありがとう」「教えてくれて、ありがとう」
「それを聞いて、安心しました」「そんな考え方があるとは知りませんでした」
「あなたに相談してよかった」
そんな言葉。
そこには、あなたが自然に提供できる価値が、隠れているかもしれません。
もちろん、「お金を払ってもらった」ことは、ビジネスとして重要です。
でも、その前段階では、「ありがとう」という言葉を集めてみる。
「何に対して、ありがとうと言われたのか?」を振り返る。
そこから、「自分が人に与えられるもの」が見えてくるのです。
10.あなたの経験は、「誰かの未来」につながる
ここまで来ると、前回の第5回の問いが、少し違って見えてきます。
「あなたの経験は、誰の役に立つのか?」
その答えは、「みんな」ではありません。
まずは、「目の前の一人」かもしれません。
あなたが30年間かけて身につけたものが、誰か一人の悩みを、少し軽くする。
あなたの失敗が、誰か一人の失敗を、防ぐ。
あなたの言葉が、誰か一人の背中を、押す。
あなたの経験が、誰か一人の未来を、少し変える。
それだけでも、十分に価値があります。
中高年からの起業では、最初から、大きな売上を目指さなくてもいい。
最初から、1000人のお客様を集めなくてもいい。
最初から、有名にならなくてもいい。
まず、一人の人に、「相談してよかった」と言ってもらう。
一人の人に、「やってみます」と言ってもらう。
一人の人に、「自分にもできるかもしれない」と思ってもらう。
その小さな変化を、積み重ねていく。
それが、やがて、「成幸」につながっていくのかもしれません。

11.「自分の経験」を、もう一度見直してみよう
ここで、一度だけ、あなた自身のことを考えてみてください。
紙に、次の4つを書いてみます。
① 私が長年やってきたこと
仕事でも、趣味でも、家庭でも構いません。
② そこで身についたこと
知識。技術。考え方。人との接し方。問題解決の方法。
③ それによって、誰かを助けられそうなこと
「この悩みなら、少し分かる」
「この問題なら、経験がある」というもの。
④ その人は、どう変われそうか?
不安が減る。自信がつく。
一歩踏み出せる。問題を整理できる。
失敗を避けられる。自分の強みに気づける。
ここまで書いてみると、あなたの中にある、「経験 → 強み → 相手の悩み → 未来の変化」という一本の線が、見えてきます。
そして、もう一つだけ質問があります。その人に、こう聴いてみてください。頭の中でいいので・・・。
「あなたが今、一番変えたいことは何ですか?」
相手の答えを想像する。
そして、もう一つ。
「その変化のために、私は何を渡せるだろう?」と考えてみる。
これが、あなたの起業の、「最初の商品」です。

12.ヒーローズ・ジャーニーの主人公は、少しずつ変わっている
最初の主人公は、「自分には何もない」と思っていました。
次に、「自分の経験にも価値があるかもしれない」と氣付いた。
そして今、「その経験を、誰かの未来に使えるかもしれない」と氣付き始めています。
これは、とても大きな変化です。
なぜなら、旅の始まりでは、「自分がどう生きるか」だけを考えていたからです。
でも今は、「自分が、誰かの人生に何を渡せるか」を考え始めている。
主人公の視線が、「自分」から、「他者」へ向き始めたのです。
ここで、起業家に必要な、もう一つの視点があります。
それは、「失敗を、フィードバックとして見る」ことです。
売れなかった。
では、なぜ?読まれなかった。
では、なぜ?相談されなかった。
では、なぜ?相手は何と言っていた?
どこで興味を失った?何に反応した?何には反応しなかった?
そうやって、一つずつ、修正していく。
そう、「完成してから出す」のではなく、「出してから育てる」です。
中高年の隠れ内向型にとって、ここは特に重要なのです。
「もっと勉強してから」「もっと準備してから」
「もっと自信がついてから」「もっと良い商品を作ってから」
そう考えて、いつまでも、外へ出せない。
でも、商品は、最初から完璧でなくてもいい。
一人に試してもらう。感想を聴く。改善する。
また一人に試してもらう。
こうして、少しずつ、育てていけばいい。

13.「自分の経験」は使って初めて「宝」になる
最後に、今回のテーマを、一つの言葉にまとめてみます。
あなたの経験は、ただ持っているだけでは、まだ「宝」ではありません。
それを、誰かのために使ったとき、初めて、「価値」になります。
そして、誰かの人生を少し変えたとき、あなたの過去は、「誰かの未来」につながります。
これこそ、中高年からの起業の、大きな意味の一つではないでしょうか。

14.旅は「自分を救う」ことから「誰かを助ける」ことへ
最初は、「自分らしく生きたい」という思いから、始まった旅でした。
会社を辞めたい。自由になりたい。
第二の人生を始めたい。自分の時間を取り戻したい。
それは、もちろん、大切なことです。
でも、旅を続けているうちに、少しずつ、主人公の中に、別の思いが生まれてきます。
「自分の経験が、誰かの役に立つかもしれない」という思いです。
そして、ここから、起業の意味が、少しずつ変わっていきます。
私自身は、中高年の「成幸」というものを考えるとき、この言葉が、とても大切だと思っています。
自分らしく生きる。
だけではなく、
自分らしく貢献する。
無理に、外向型になる必要はない。無理に、目立つ必要もない。無理に、大きな組織を作る必要もない。
自分の性質を理解し、自分の経験を活かし、自分が自然体でいられる方法で、誰かの役に立つ。
そんな起業の形があってもいい。
実は、主人公が戦っている相手は、
「売れないこと」だけではありません。
「人脈がないこと」でもありません。
「SNSが苦手なこと」でもありません。
もっと根深いところに、「自分には価値がない」という思い込みがあります。
「もう年だから」「普通の会社員だったから」
「特別な才能がないから」「有名じゃないから」
「資格がないから」「若い人に負けるから」
そうした思い込みです。
でも、ここまで旅をしてきた主人公は、少しずつ分かり始めます。
「自分の価値は、若さや肩書きだけで決まるものではない」ということを。

15.次回、主人公は「売れない」という壁と向き合う
ここまで来ると、主人公は、「自分の経験には価値がある」と知っています。
「誰かの役に立てるかもしれない」とも思っています。
でも、現実は、そんなに甘くありません。
商品を作っても、売れない。発信しても、反応がない。
勇気を出して、「こんなことを始めました」と言っても、誰も振り向いてくれない。
そして、主人公は、もう一度、自分自身に問いかけます。
「本当に、私はこの道を進みたいのか?」

