〜起業して初めて見えた「外向型社会」の壁〜
隠れ内向型の中高年が歩む「ヒーローズ・ジャーニー」④
前回までの記事では、「なぜ、自分は起業したいと思ったのだろう?」という問いから始まり、
「このままでは終わりたくない」「もっと自分らしく生きたい」「自分の人生を、自分で決めたい」
という、心の奥からの「冒険への召命」について考えてきました。
そして、その一方で、
「もう年だから」「今さら無理だ」「失敗したらどうする?」「自分には何の才能もない」
という「冒険への拒否」もありました。
さらに、「起業家になるなら、もっと外向的な人間にならなければならない」
という、隠れ内向型ならではの思い込みについても考えました。
それでも、主人公は一歩を踏み出します。
会社を辞めた。起業を始めた。自分の商品を作った。
誰かに「こんな仕事を始めました」と伝えた。
初めてお金をいただいた。
あるいは、まだ起業していなくても、「自分で何かを始めてみよう」と動き出した。
そう、ついに、「これまでの世界」と「未知の世界」の境界線を越えたのです。
ヒーローズ・ジャーニーで言えば、いよいよ「冒険の世界」に入ったことになります。
ところが・・・!!
実は、ここからが、本当の物語の始まりだったのです。
1.「自由になりたくて起業したのに・・・」
起業した人が、最初に感じることの一つとして、「思っていたより、ずっと大変だ」ということがあるのではないでしょうか。
会社員時代は、「会社を辞めたら、もっと自由になれる」と思っていた。
上司はいない。出社時間もない。自分で仕事を決められる。
嫌な仕事を断ることもできる。誰かの指示を待つ必要もない。
「これで、自分らしく働ける」
そう思っていた。
ところが、実際に起業してみると・・・
お客様を探さなければならない。営業しなければならない。
SNSで発信しなければならない。自分のサービスを説明しなければならない。
請求書を出さなければならない。売上を管理しなければならない。
確定申告もしなければならない。
そして何より、「誰も仕事を持ってきてくれない」という現実があります。
私自身、このことに氣付いたときは、さすがに「ガーン!」となりました。💦💦

2.「会社員時代にはこんなことをしなくてよかった」
会社員だった頃は、「営業は営業部がやってくれる」「経理は経理部がやってくれる」「広報は広報部がやってくれる」「システムは情報システム部がやってくれる」
というように、組織の中で役割が分かれていました。
自分の専門分野に集中できた。ところが、起業すると、「全部、自分」です。
専門家であるだけでは足りない。
自分の商品を作る。自分で売る。自分で伝える。自分でお金を管理する。自分で判断する。自分で責任を取る。
これまで会社という大きな船の中で仕事をしていたのが、今度は、
「自分一人で船を操縦する」ことになります。
自由になった。
でも、自由とは、「自分ですべてを決めなければならない」ということでもあったのです。💦💦

3.そして隠れ内向型は「営業」という壁にぶつかる
中でも大きな壁になりやすいのが、「営業」ではないでしょうか。
「自分の商品を買ってください」「私には、こんなことができます」「あなたの問題を解決できます」
そう伝えなければならない。
でも、「自分を売り込む」ことが苦手。「私が、私が」と前に出るのが苦手。
相手に断られるのも怖い。
「営業してください」と言われるだけで、氣持ちが重くなる。
そして、「やっぱり、自分は起業に向いていないのではないか」と思ってしまう。💦💦
さらに、「起業家は人脈が大切」という言葉があります。
確かに、人とのつながりは大切です。
でも、ここでも隠れ内向型は、「とにかく人に会わなければ」と思ってしまうことがあります。
異業種交流会。セミナー。勉強会。懇親会。オンライン交流会。名刺交換。SNSでのつながり。
一日に何人もの人と会う。最初は頑張れる。「これも仕事だから」と思う。
でも、帰宅すると、ぐったりする。翌日になっても疲れが残る。
誰とも話したくなくなる。一人になりたくなる。
そして、「こんなことで疲れている自分は、個人起業家失格なのでは?」と思ってしまうのですね。💦💦

4.ここで、一つ大切なことがあります
あなたが疲れているからといって、「起業に向いていない」というこではありません。
むしろ、「自分に合わない起業のやり方をしている」ことがとても多いのです。
これは、とても大きな違いです。
例えば、「毎日、人と会う」ことが合わない人がいる。
でも、「週に2回、一対一でじっくり話す」なら力を発揮できるかもしれない。
「SNSで毎日短い動画を投稿する」のは苦手でも、「noteで、自分の考えをじっくり書く」ことならできるかもしれない。
「飛び込み営業」は苦手でも、「紹介された人に、丁寧に話を聞く」ことなら得意かもしれない。
「100人の前でプレゼンする」のは疲れても、「一人のお客様の悩みを深く聞く」ことなら、むしろ楽しいかもしれない。
つまり、「営業が苦手」なのではなく、「自分に合わない営業方法が苦手」なのですね。
5.「売る」のではなく「役に立つ」
隠れ内向型の人にとって、起業で一つの転換点になるのが、「売る」から「役に立つ」への視点の転換ではないでしょうか。
「私の商品を買ってください」と思うと、どうしても緊張します。
「自分を売り込まなければ」と思うと、疲れます。
でも、「この人は、何に困っているのだろう?」と考える。
「自分の経験で、何か役に立てることはないだろうか?」と考える。
すると、少し変わってきます。
営業が、「自分をアピールする行為」ではなく、「相手の問題を理解する行為」に変わるからです。
ここで、隠れ内向型が持っている可能性のある大きな強みが出てきます。
それは、「聞く力」です。
外向型の人が、「自分の考えを伝える」ことを得意としているなら、
内向型の人は、「相手の話をじっくり聞く」ことを得意とする場合がとても多い。
相手が何を言ったのか。なぜ、そう思ったのか。本当は何に困っているのか。言葉の裏に、どんな気持ちがあるのか。
そんなことを考えながら話を聞く。
これは、コンサルティング、コーチング、カウンセリング、専門サービス、教育、文章による情報発信、商品開発、顧客サポートなど、
さまざまな仕事で役立つ力です。

6.「深く考える力」も立派な起業家の武器
もう一つあります。
「深く考える力」です。
隠れ内向型の人は、「考えすぎる」と言われることがあります。
何かを始める前に、「本当にこれでいいのか?」「この方法で大丈夫か?」「相手はどう感じるだろう?」と、何度も考える。
若い頃は、「考えすぎだよ」と言われたかもしれません。
でも、起業の世界では、この性質が役に立つ場面があります。
市場を調べる。顧客のニーズを考える。競合を分析する。
サービスを改善する。文章を推敲する。リスクを考える。長期的な戦略を立てる。
もちろん、考えすぎて行動できなくなるのは問題です。
でも、「深く考える力」そのものが欠点なのではありません。
それを、「考えてから、小さく行動する」という形に変えていけばいいのですね。
7.「一人で集中できる力」も武器になる
起業すると、「人と会うこと」ばかりが注目されます。
でも、実際には、「一人で集中して価値を作る時間」も非常に重要です。
商品を作る。文章を書く。企画を考える。資料を作る。専門知識を勉強する。
顧客の問題を分析する。サービスを改善する。
こうした仕事は、静かな環境の方が力を発揮できる人もいます。
つまり、「一人でいることが好き」という性質は、起業において必ずしも弱点ではないのです。
ただし、ここで注意したいことがあります。内向型にとって、「一人の時間」は大切です。
でも、「孤独」は別物です。
一人で集中する時間は、心地よい。でも、「誰にも相談できない」
「自分の悩みを話せる人がいない」「何か問題が起きても、全部一人で抱える」となると、話は変わってきます。
起業には、「一人で仕事をする時間」と、「誰かとつながる時間」の両方が必要です。
だから、「内向型だから、人と関わらなくていい」ということではありません。
むしろ、「自分に必要な人間関係を、自分で選ぶ」ことが重要なのです。
例えば、
1000人と名刺交換するより、10人の信頼できる人と深くつながる。
100人に自分を売り込むより、10人の悩みに丁寧に耳を傾ける。
毎日SNSで発信するより、一つの記事を時間をかけて書く。
そんなやり方でもいいのです。
むしろ、中高年×隠れ内向型という組み合わせなら、これまでの人生経験を生かして、
「広く浅く」より「狭く深く」という方向性が合う場合があります。
これは、「小さく生きる」ということではありません。
「深さを価値に変える」ということです。

8.「自分のペース」を作る
もう一つ、大切なのが、「自分のペース」です。
会社員時代は、会社のスケジュールに合わせる。会議の時間に合わせる。上司の都合に合わせる。顧客の都合に合わせる。組織の都合に合わせる。
それらが当たり前でした。
でも、起業したら、ある程度は自分で調整できます。
であるなら、「自分が一番力を発揮できる時間帯」を知っておく。
午前中は一人で集中する。午後に人と会う。週に何日かは、人と会わない日を作る。オンライン面談をまとめる。一人で考える時間を確保する。
こうした工夫ができます。
ここは、非常に重要です。
会社員を辞めたのに、自分で自分に、「もっと働け!」「もっと営業しろ!」「もっと発信しろ!」「もっと人に会え!」「もっと売上を上げろ!」
と命令していたら、会社を辞めた意味がなくなってしまいます。
もちろん、ビジネスですから努力は必要です。
でも、「会社員時代の働き方を、一人で再現する」ことが起業ではありません。
起業とは、「自分に合った仕事の仕組みを、自分で設計すること」でもあるからです。

9.ここで主人公は一つ目の「宝」を発見する
ヒーローズ・ジャーニーでは、冒険の世界に入った主人公は、さまざまな試練に出会います。そして、その試練を通して、「自分が持っていたもの」に氣付いていきます。
隠れ内向型の中高年起業家にとって、その最初の「宝」は、「自分を変えなくても、戦い方を変えることができる」という発見なのではないでしょうか。
人と会うのが苦手なら、「人と会わなくても価値を届ける方法」を考える。
営業が苦手なら、「営業しなくても選ばれる仕組み」を考える。
大人数が苦手なら、「少人数と深く関わるビジネス」を考える。
話すのが苦手なら、「文章で伝える」。
一人で考えるのが得意なら、「その時間を価値創造に使う」。
つまり、「自分を変える」のではなく、「自分の特性を活かせる環境を作る」ということです。
ここで、ぜひ一度、次の3点について考えてみてください。
① 私は、何をすると疲れるのか?
人と会うこと?電話?大人数の場?SNS?営業?細かな事務作業?それとも、別のこと?
まず、「自分のエネルギーを消耗させるもの」を知ることです。
② 私は、何をしていると時間を忘れるのか?
文章を書く。調べものをする。人の相談に乗る。何かを作る。教える。
分析する。企画する。話を聞く。整理する。考える。
何でしょうか?
そこには、あなたが自然に力を使える領域が隠れている可能性があります。
③ 私は、どんな人となら自然体でいられるのか?
大人数ではなく、一対一。競争相手ではなく、相談相手。
売り込む相手ではなく、悩みを共有してくれる人。
年齢が近い人。価値観が似ている人。専門性を評価してくれる人。
こうした、「自分が自然体でいられる人」を知ることもとても大事ことです。

10.3つの答えが重なるところに「自分の仕事」がある
もし、「一人で文章を書くと疲れない」「人の悩みを聞くのが好き」「自分と同じような中高年の人と話すのが心地よい」という答えが出たとします。
そこには、「中高年向けに、自分の経験を文章や相談で届ける」という仕事が見えてくるかもしれません。
もちろん、すぐにビジネスになるとは限りません。
でも、「自分の性質 × 経験 × 誰かの困りごと」が重なるところを探す。
それが、「自分に合った起業」を作る一つの方法なのではないでしょうか。
11.ここで、主人公は「自分の戦い方」を知り始める
旅の最初、主人公は、「強くならなければ」と思っていました。
「もっと勇敢にならなければ」「もっと社交的にならなければ」「もっと積極的にならなければ」と思っていた。
でも、試練に出会うことで、少しずつ分かってくる。
「自分は、自分のやり方で進めばいいのではないか?」と。
これは、「努力しなくていい」ということではありません。
「何でもできるようになる必要はない」ということです。
必要なのは、「自分の強みを使い、弱みは仕組みや人の力を借りる」こと。
そして、「自分が一番力を発揮できる場所を選ぶ」こと。
これが、「自分自身を経営する」ということなのでしょうね。
12.起業は「自分を証明する旅」ではない
中高年になって起業すると、「まだ自分には価値がある」ことを証明したくなることがあります。
「定年しても、自分はまだできる」「会社を辞めても、自分には価値がある」「若い人にも負けない」そんな思いです。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
でも、「自分の価値を証明すること」だけを目的にすると、いつか苦しくなります。
売上が落ちたら、「自分には価値がない」と思ってしまう。
SNSの反応がなければ、「自分は誰にも必要とされていない」と思ってしまう。
仕事が取れなければ、「自分は失敗した」と思ってしまう。
でも、あなたの価値と、ビジネスの結果は同じではありません。
起業は、「自分が価値のある人間だと証明する旅」ではなく、
「自分が持っているものを、誰かの役に立つ形に変えていく旅」と考えるほうがとても大切なのですね。

13.それでも、まだ試練は終わらない
ここまで読んで、「なるほど、自分に合ったやり方を見つければいいのか」と思われたかもしれません。
その通りです。
でも、ヒーローズ・ジャーニーは、ここで終わりません。
むしろ、ここからが本番です。
自分に合ったやり方を見つけた。
でも、売れない。発信しても反応がない。
思ったようにお客様が来ない。自信がなくなる。
周囲から、「そんなことをやって何になるの?」と言われる。
同年代の人が、「もう十分じゃない?」と言ってくる。
そして、自分自身も、「やっぱり会社員に戻った方がいいのでは?」と思い始める。
起業の旅には、「自分らしさ」だけでは乗り越えられない試練があります。
それは、「自分らしさを、どうやって誰かの役に立つ形にするのか?」という問題です。
自分が好きなこと。自分が得意なこと。自分が経験してきたこと。
それだけでは、まだ「ビジネス」になりません。
そこに、「誰かが本当に困っていること」を重ねる必要があります。
これは、隠れ内向型の中高年起業家にとって、次の大きな試練になるでしょう。

14.旅は、少しずつ「自分探し」から「誰かのため」へ変わっていく
最初は、「自分らしく生きたい」という思いから始まった旅。
でも、少しずつ、「自分らしく生きる」だけでは足りないことに気づいていきます。
自分の経験を、誰かの悩みを解決するために使う。
自分の知識を、誰かが前に進むために使う。
自分の失敗を、誰かが同じ失敗をしないために使う。
そうやって、「自分のための起業」から「誰かのための起業」へ変化していく。
そのとき、「仕事」の意味も変わっていくのですね。
そして、中高年の起業で、ぜひ忘れないでほしいことがあります。
あなたが、「こんなこと、誰でも知っている」と思っていること。
それが、誰かにとっては、「ぜひ教えてほしいこと」かもしれないということを。
30年営業をしてきた。20年、人材育成をしてきた。長年、製造現場で働いてきた。何度も転職を経験した。
部下の育成に悩んできた。会社の中で人間関係を経験してきた。失敗から立ち直ってきた。定年を経験した。
それらはすべて、「誰かの役に立つ可能性のある経験」です。
でも皮肉にも、あなた自身が「普通のこと」と思っているからこそ、その価値に氣付きにくい。💦💦
15.旅の途中で主人公は「自分の武器」に氣付く
今回の物語を、ヒーローズ・ジャーニーとして整理すると、主人公は、「自分を変えなければ成功できない」と思っていた。
ところが、起業してみると、自分に合わない方法では疲弊する。
そこで初めて、「自分には、自分なりの戦い方がある」と氣付く。
「聞く力」「考える力」「深掘りする力」
「専門性」「経験」「一人で集中する力」
「少人数と深く関わる力」「長い時間をかけて信頼を築く力」
それらを、「弱点」ではなく「武器」として見直し始める。
これが、今回の旅で主人公が手に入れた、最初の宝なのです。
あなたは、もしかすると、これまで、「成功した起業家にならなければ」と思っていたかもしれません。
「有名にならなければ」「大きな会社にしなければ」「売上を何千万円、何億円にしなければ」「SNSのフォロワーを増やさなければ」
でも、もしかすると、あなたが目指しているものは、そんなものではないのかもしれません。
「自分の人生を、自分で納得できる形にする」それだけでいいのかもしれません。
そして、「自分の経験を、誰かの役に立てる」ことができれば、それは十分に価値のある仕事なのではないでしょうか。

16.「自由になったはずなのに疲れる」
この言葉には、実は二つの意味があります。
一つは、「起業したら、会社員時代とは違う苦労がある」という現実。
もう一つは、「今まで、自分に合わない働き方をしていたことに氣付く」という発見です。
これまでの人生では、「社会に自分を合わせる」ことが中心でした。
でも、これからは、「自分に合う環境を作る」ことができる。
そのためには、自分自身を知る必要があります。
何をすると元気になるのか。何をすると疲れるのか。誰といると自然体でいられるのか。
どんな仕事なら集中できるのか。どんな仕事なら時間を忘れるのか。どんな働き方なら、長く続けられるのか。
これは、「自分の取扱説明書」を作るようなものです。
そして、中高年からの起業は、「会社を経営すること」であると同時に、「自分自身を経営すること」でもあるのです。
ここまで来れば、「自分らしい起業の形」が少し見えてきます。
でも、「自分らしく働ける」ことと「お客様に選ばれる」ことは別問題です。
ここから主人公は、さらに厳しい問いと向き合うことになります。
「自分は何ができるのか?」ではなく、「それを、誰が必要としているのか?」
「自分は何を伝えたいのか?」ではなく、「相手は、何に困っているのか?」
「自分の経験には価値がある」だけではなく、「その経験を、相手にとっての価値に変換できるのか?」
という問いです。
これは、「自分探し」の旅から、「誰かの役に立つ旅」への転換です。

